· 

2023/11/5「福島第一原発のALPS処理水の海洋放出を直ちに中止し、処理水減容の抜本的対策を求める声明」を発表

 2023年11月5日、「福島第一原発のALPS処理水の海洋放出を直ちに中止し、処理水減容の抜本的対策を求める声明」を発表し、岸田首相と東京電力ホールディングス(株)に送付しました。


2023年11月5日

 

福島第一原発のALPS処理水の海洋放出を直ちに中止し、
 処理水減容の抜本的対策を求める声明


          泊再稼働させない・核ゴミ持ち込ませない北海道連絡会
 代表 市川守弘


 8月24日の、いわゆるALPS処理水の海洋放出は、想定外の中国の日本産海産物の全面輸入禁止措置や、香港の10都府県の水産物輸入禁止措置を招き、日本の水産業や水産物流通業界などに極めて深刻な打撃を与えている。

 2022年の水産物の輸出総額(23年6月農林水産省統計)3873億円のうち、輸出先の1位は中国、2位が香港、3位が米国である。中国向け輸出額は871億円、香港向けは755億円、水産物輸出総額に占める中国の比率は22.5%、香港は19.5%、合計で42.0%にも達し、いかに中国・香港に依存しているかがわかる。
 さらには、中国の主要都市に進出している日系の企業、例えば寿司店など日本の水産物を主な食材とする企業が閉店や撤退を余儀なくされる事案が相次いでいると伝えられる(8月25日『日経新聞』、同30日『読売新聞』、9月1日『東方新聞』ほか)。
 福島第一原発事故後、マイナス状況から立ち上がった地元福島県は勿論だが、北海道においてもホタテなどの中国向け輸出禁止の被害は深刻である。「日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、わが国のホタテの輸出額は令和4年、911億円。このうち中国向けは467億円で約51%に上る。全体のうち北海道分は597億円で約66%。さらにこのうち中国向けは434億円で、北海道分の実に約73%を占める」(9月23日『産経新聞』)。これを回復するために国は1007億円の風評被害対策費を講じ、北海道も道内漁業者や水産加工・流通業者など中小企業者からの相談を受け付けている。東電も風評被害対策窓口を設置する方向で調整中ということだが、いずれも根本的解決には至っていない。
 そこで、弊会はこうした状況を少しでも改善するために、以下に述べる五つの理由で、国と東電に対し、福島第一原発のALPS処理水の海洋放出を直ちに中止し、同時に処理水減容の抜本的対策を求めて声明とするものである。

 

 第一の理由。処理水の海洋放出は2015年8月の福島県漁連の「サブドレン水等排出等に対する要望」に対する国の回答、「こうしたプロセスや関係者の理解なしには、いかなる処分も行いません」を自ら踏みにじるものである。また、8年前の約束を破る国が「必要な対策をとり続けることを、たとえ今後数十年の長期にわたろうとも、全責任を持って対応することを約束する」(8月21日岸田首相)資格はなく、信用に値しない。


 第二の理由は、7月4日の、処理水の海洋放出計画の安全性が国際基準に合致するというIAEAの包括報告書の安全基準のうち、少なくとも「(justification)正当化」と、「幅広い関係者との意見交換」に適合していないことである。実際に、IAEAの報告書には「処理水の海洋放出への適合性の評価への要請は、日本政府が放出を決めた後のことで、IAEAの検証範囲に正当化プロセスの詳細に関する評価は含まれない」「日本政府の方針を推奨するものでも支持するものでもない」とある。つまり、海洋放出以外の選択肢や代替案については検討していないのである。IAEA包括報告書に正当性はない。

 さらに言えば、ALPS処理水海洋放出は汚染物の海洋投棄を禁ずるロンドン条約及び議定書違反である。国や東電は条約では「廃棄物等を船舶等から故意に処分すること」が禁止されていて「陸上からの排出を禁止していないと」とする。だが、条約第3条では投棄の定義を「廃棄物その他の物を船舶、航空機又はプラットフォ-ムその他の人工海洋構築物から故意に処分すること」としている。海底トンネルからの放出は当にこれである。ALPS処理水の海洋放出はロンドン条約及び議定書違反であり、国際基準に合致しない。


 第三は、ALPS処理水は通常の原発からは放出されることがない原発事故による汚染水に由来するもので、多くの核種を含んでいることであり、その海洋放出は世界で初めてである。また、放出処理水は希釈されているとはいうものの、その総量や危険性など実態は明らかにされていない。

 さらには、トリチウムに関しては実害があるという研究や専門家も多いにも拘わらず、経産省のサイト、例えば『ALPS処理水に関する質問と回答』などではほとんどトリチウムが無害であるかのような書きぶりで、極めて一方的である。取り分け、内部被曝の怖さに関しては意図的に無視し、もしくは隠蔽しようとしていると言っても過言ではない。

 処理水の海洋放出をしないための代替案、例えば大型タンクでの貯留案やモルタル固化案などが既に民間から示されているが、国はこれをまじめに検討すべきである。

 

 第四は、ALPS処理された汚染水の放出の目的である。8月21日の岸田首相記者会見冒頭発言によれば、福島が「復興を遂げていくために絶対に先送りできない課題が、福島第一(原発)の事故炉の着実な廃炉で」あり、使用済み核燃料とデブリを保管するためのスペース、デブリ取り出しの様々な技術開発と新たな機器の操作のための教育訓練スペース確保のために、「廃炉の前提となるALPS処理水の処分を避けて通ることはでき」ないというのである。

 だが、現在全量880トンあるというデブリはわずか1グラムも取り出すに至っていない。そして、取り出したデブリはどうするのか。再処理してサイクルするのか、処分する核のごみなのかそれすらも決まっていない。そればかりか、国はそもそも「福島第一原発事故炉の着実な廃炉」の形を示していない。現在のデブリ取り出しの状況からは、福島第一原発の廃炉は30~40年(資源エネ庁「中長期ロードマップ」)どころか、100年単位を要し、しかも完全に取り出すことは不可能だと断言する専門家もいる(例えば元京大原子炉研究所助教小出裕章氏の諸著作、元東工大ゼロカーボンエネルギー研究所助教澤田哲生氏、https://www.youtube.com/watch?v=CNluSre_fRUなど)。すなわち、福島第一原発の廃炉やデブリの取り出しとALPS処理水の放出は関係がない。


 第五の理由。最も必要かつ急がれることは汚染水の発生を極力減らすことである。そのためには、例えば現在の凍土壁よりも深くて大きな広域遮水壁のようなものであれば、費用も凍土壁350億円の半分で済むという意見もある(福島第一原発地質・地下水問題団体研究グループ『福島第一原子力発電所の地質・地下水問題―原発事故後10年の現状と課題―』2021年7月、P.177~180)。これは十分検討に値するとおもわれるが、国や東電はもっと民間の優れた知見に謙虚に耳を傾け、必要とあらばその意見を取り入れる努力をするべきである。

 

以上