岡村聡北海道教育大学名誉教授らが寿都町の「磯谷溶岩」の火山活動の中心について、分布範囲南側にある火砕丘付近と特定した論文が日本地質学会に受理されたことを受け、2025年6月13日、原子力発電環境整備機構(NUMO)に対し、すみやかに寿都町の文献調査報告書を修正し、磯谷溶岩の活動中心から半径15㎞以内を概要調査候補地区から除外することを要請する文書を提出しました。
2025年6月25日付でNUMOから回答があり、この回答を受けて2025年7月5日付でNUMOに対し再要請文を提出しました。
また、同日付で経済産業省に対し、NUMOに対して岡村聡北海道教育大学名誉教授らによる「磯谷溶岩」についての論文をすみやかに精査し、磯谷溶岩の活動中心から半径15㎞以内を概要調査候補地区から除外するよう指導することを求める要請書を提出しました。
2025年7月17日付でNUMOから回答がありました。
参考記事
2025/6/13 寿都町の火山活動に関する論文が地質学会に受理されたことを受け、NUMOに対し磯谷溶岩の活動中心から半径15km以内を概要調査候補地区から除外することを求める要請文を提出
原子力発電環境整備機構(NUMO)への再要請文
2025年7月5日
原子力発電環境整備機構
理事長 山口 彰 様
泊原発を再稼働させない・核ゴミを持ち込ませない北海道連絡会
代表 市川守弘
日本地質学会が受理した岡村聡北海道教育大学名誉教授らによる「磯谷溶岩」についての論文をすみやかに精査し、磯谷溶岩の活動中心から半径15㎞以内を概要調査候補地区から除外することを再度、要請します。
岡村聡北海道教育大学名誉教授らが発表した磯谷溶岩に関する新知見を受け、当連絡会では6月13日付で、貴機構に対し受理済み論文を確認してすみやかに寿都町の文献調査報告書を修正し、磯谷溶岩の火山中心から半径15㎞以内を概要調査候補地区から除外することを求める要請文を送付しました。この要請文に対し、貴機構は6月25日付(当方受理は7月1日)で、岡村氏らによる磯谷溶岩が第四紀火山である旨の2024年10月の火山学会での発表、および2025年5月の日本地球惑星科学連合大会での発表について「火道、岩脈、火口などの情報はなく『さけるべき基準』に該当するかどうかについて、引き続き評価できない」とし、また5月31日付で磯谷溶岩の火山中心を特定する知見を含む論文が、日本地質学会発行の学会誌「地質学雑誌」に受理されたことに対しては「公表された段階で、内容を把握した後、文献調査結果に影響を与え得る情報や新知見があれば、真摯に対応を検討します」と回答しました。
貴機構の回答は、上記学会発表において、少なくとも第四紀を示す年代が公表されたにも関わらず、文献調査報告書を修正することを拒否し、さらに、学会誌の受理済み論文の存在を知りながら、新知見を積極的に取り入れることに全く消極的であり、6月13日付要請文でも述べたとおり、「文献調査結果に影響を与え得る情報や新知見があれば、真摯に対応を検討します」(岩見沢会場および帯広会場からの質問票に対するHPでの回答)という法定説明会での道民との約束に反しています。
「地質学雑誌」が受理した岡村氏らの論文(「西南北海道、当丸山溶岩と磯谷溶岩のK-Ar年代と岩石記載:寿都町と神恵内村周辺における第四紀火山の認定について」(地質学雑誌、第131巻、第1号、213-222)は、すでに印刷に入っているものであり、岡村氏により当該論文が貴機構に送付・受理されていると聞いています。貴機構が「まだ公表されていない」という理由でその内容を精査せず、万が一にも概要調査実施計画を経産相に提出するなどの次の手続きを進めてしまうことがあれば、貴機構への道民・国民の信頼は、完全に失われることをご理解ください。
私たちは、貴機構の今回の6月25日付回答に抗議するとともに、以下に述べる理由から、岡村氏らの論文をすみやかに精査し、寿都町の「磯谷溶岩」の活動中心から半径15㎞以内を概要調査候補地区から除外することを再度要請します。
記
-
貴機構は文献調査報告書において磯谷溶岩が処分地として避けるべき第四紀火山であることを確認するためには、第四紀を示す年代データの拡充、火山の活動中心の評価、近傍の火山「ニセコ・雷電火山群」との相違が必要であるとしてきたが、日本地質学会発行の学会誌「地質学雑誌」に掲載が確定している岡村氏らによる論文により以下の3点があきらかになった。
- 1)磯谷溶岩は、270±60万年前の活動年代を示し、第四紀(258万年前から)まで活動した可能性がある。
- 2)磯谷溶岩の噴火中心は、火口近くで堆積する岩石片、岩脈、溶岩流地形の傾斜方向などから、「磯谷牧場」南端の山頂部周辺である。
- 3)磯谷溶岩は、ニセコ-雷電火山群とは異なるマグマ組成である。以上の新知見によって磯谷溶岩が処分地として避けるべき第四紀火山とする要件はすべて満たされた。
- 貴機構は北海道各地で行った文献調査報告書の法定説明会において「活断層や火山などの広域的な現象については、概要調査段階では、許容リスク内である(「おそれが少ない」など)ことの確認が難しいものも含めて、その影響が及ぶ範囲を除外」すると何度も答えている(倶知安、札幌ファクトリーほか)。よって仮に概要調査に進んだ場合、磯谷溶岩の活動中心から半径15㎞以内は、精密調査地区から除外されることが予め確定している。
- 概要調査を行っても精密調査地区に選定される可能性がないことが予め確定している地域を、文献調査段階で除外せず概要調査候補地区とすることは、経済的・人的資源投入の側面から考えても不合理であり、貴機構の原資が、もともとは国民から徴収した電気代であることを考えれば、このような無駄は許されない。
- 「特定放射性廃棄物の最終処分に関する計画」 (2008年3月閣議決定)では、「第5…機構は、最終処分の実施については最新の知見を十分反映して行うものとする」と定められている。
- また、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針」(2023年4月閣議決定)では、貴機構は「国民の意見を広く受け止め、その後の活動にいかすこと等を通じ、国民の信頼を得られるよう努めるものとする」とされている。文献調査報告書の法定説明会では全道の会場で磯谷溶岩に関する質問が多数寄せられており、また報告書に対する意見書を提出した道民からは、磯谷溶岩について、その活動中心から半径15㎞以内を概要調査候補地区から除外することを求める意見を提出したという声が当連絡会にも届いている。さらに「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律施行規則」(2000年)は、「第十二条 機構は、第十条第一項の意見が述べられたときはこれに配意して、概要調査地区の選定をしなければならない」と定めている。
以上のことから貴機構には、岡村氏らが発表した磯谷溶岩に関する新知見を受け、当該論文を精査し、寿都町の文献調査報告書を修正して、磯谷溶岩の火山中心から半径15㎞以内を概要調査候補地区から除外する義務があります。貴機構が、すみやかに文献調査報告書を修正されることを、再度求めます。
以上
ご多忙とは存じますが、同封の封筒により、私たちの要請に対する回答を7月17日までにいただけますようお願いいたします。
経済産業省への要請書
2025年7月5日
経済産業大臣 武藤容治様
泊原発を再稼働させない・核ゴミを持ち込ませない北海道連絡会
代表 市川守弘
要請書
このたび原子力発電環境整備機構に対し、寿都町文献調査報告書に関する岡村聡北海道教育大学名誉教授らによる新知見の反映を求めて、同封の要請文「日本地質学会が受理した岡村聡北海道教育大学名誉教授らによる『磯谷溶岩』についての論文をすみやかに精査し、磯谷溶岩の活動中心から半径15㎞以内を概要調査候補地区から除外することを再度、要請します」を送付いたしました。機構に対する同要請は二度目になりますが、現在のところ、機構は新知見の報告書への反映に後ろ向きの態度を続けています。
機構に対する要請文にも記したとおり「特定放射性廃棄物の最終処分に関する計画」 (2008年3月閣議決定)では、「第5…機構は、最終処分の実施については最新の知見を十分反映して行うものとする」と定められています。また、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針」(2023年4月閣議決定)では、機構は「国民の意見を広く受け止め、その後の活動にいかすこと等を通じ、国民の信頼を得られるよう努めるものとする」とされています。道民・国民からの信頼を得る趣旨からも、機構を監督する立場にある貴職が、機構に対し、岡村聡北海道教育大学名誉教授らによる「磯谷溶岩」についての論文をすみやかに精査し、磯谷溶岩の活動中心から半径15㎞以内を概要調査候補地区から除外するよう、指導されることを強く要請いたします。
以上
NUMOからの回答
2025年7月17日
泊原発を再稼働させない・核ゴミを持ち込ませない北海道連絡会
代表 市川守弘 様
原子力発電環境整備機構
理事長 山口 彰
回答書
7月7日に受領しました要請文について、回答します。
7/17に、地質学雑誌第131巻第1号において、岡村 聡 北海道教育大学名誉教授らにより、「西南北海道,当丸山溶岩と磯谷溶岩のK-Ar年代(注1)と岩石記載:寿都町と神恵内村周辺における第四紀火山の認定について」と題する報告(以下、「報告」という)が掲載されました(注2)。このうち磯谷溶岩についての当機構の見解は以下のとおりです。
なお、地質学雑誌電子版投稿編集出版規則に示された論文の種類のうち、報告は「卒論・修論等に掲載されたオリジナルデータあるいは業務などの中で得られたデータの報告.」であり、「議論は含まない.」とされています。
【当機構の見解】
◯寿都町の文献調査報告書では、磯谷溶岩が、「文献調査段階の評価の考え方」の火山活動に関する「避けるべき基準」に示された
(ア)マグマの貫入等による人工バリアの破壊が生ずるような第四紀(現在から約258万年前まで)における火山活動に係る火道、岩脈、カルデラ(注3)等の履歴
(イ)第四紀に活動した火山の活動中心
に該当するかどうかについて、十分な文献が無く評価できなかったため、概要調査で特に確認する事項としています。基準に照らした評価を行うためには、年代、マグマが下から貫入しているかどうか(岩脈1、火道、火口など)(注4)、磯谷溶岩がニセコ・雷電火山群に由来するかどうかについて、確認する必要があります2。
◯「報告」では、磯谷溶岩について、年代に関する情報はあったものの、火道、火口などの明確な情報は確認できませんでした。また、磯谷溶岩がニセコ・雷電火山群に由来するかどうかを評価し得る情報は確認できませんでした。したがって、「避けるべき基準」に該当するかどうかについて、引き続き評価できないことから、概要調査地区の候補は変わらず、文献調査結果には影響しないものと考えています。
◯概要調査に進ませていただいた場合、さらなる調査・検討を行いたいと考えています。
1 「報告」では、磯谷溶岩の南部には「(略)玄武岩質岩脈が貫き柱状節理が発達する(試料採取地点,ISY-07)」(p.217 左列)としている。確認された玄武岩質岩脈は、「避けるべき基準」の(ア)に関係するが、位置が寿都町外である。
2 磯谷溶岩がニセコ・雷電火山群に由来しない第四紀の火山活動である場合は、磯谷溶岩について別途、基準(イ)への該当性を検討する必要がある。
個別の論点については以下のように考えます。
1.磯谷溶岩がニセコ・雷電火山群に由来するかどうかについて
「報告」の説明は以下のとおりです。
➢ 磯谷溶岩の近隣の雷電岬火山角礫岩層を含むいくつかの火山岩類との化学組成の近似性を示した上で、「結論として,磯谷溶岩は(中略)雷電岬火山角礫岩層との近侍性(原文のまま。「近似」と考えられる。)が最も高いマグマに由来した可能性がある.」、「今後は(中略)詳細な分析を行い比較検討する必要がある.」(p.221 左列)としている。
➢ 「ニセコ・雷電火山群の基盤にあたる雷電岬火山角礫岩層は,2.0〜1.8 Ma(注5)の活動年代が推定されており,上位の雷電山噴出物によって不整合におおわれる.」(p.215 左列)としている。
➢ 「活動中心は磯谷溶岩南部の火砕丘(注6)周辺と推定され」(p.221 右列「まとめ」の3))としている。
➢ 「磯谷溶岩だけが第四紀初頭に活動し,ニセコ・雷電火山群とは異なる第四紀火山として認定される.」(p.221 右列「まとめ」の3))としている。
これに対して当機構は以下のように考えます。
➢ いくつかの火山岩類との化学組成の近似性を示した上で、磯谷溶岩の一部と雷電岬火山角礫岩層の一部との近似性のみを取り上げ、評価を行っている。その上で、「可能性がある」(p.221 左列)、「今後詳細な検討が必要である」(p.221 左列)、との評価にとどまっていることから、磯谷溶岩が雷電岬火山角礫岩層と近似性が最も高いマグマに由来したとは断定できない。
➢ 雷電岬火山角礫岩層がニセコ・雷電火山群と異なるとする十分な根拠が説明されていない。
➢ また、磯谷溶岩南部の火砕丘周辺が活動中心であるかどうかは推定にとどまり、火道、火ロなどの存在を明確に示す情報が確認できない。
➢ したがって、磯谷溶岩とニセコ・雷電火山群が異なる火山活動であるとの主張は十分な根拠に基づくものではない。
➢ 文献調査報告書においては、文献に基づき、雷電岬火山角礫岩層とニセコ・雷電火山群を一連の火山岩類として整理しており、これらと磯谷溶岩の関係は十分な文献が無く評価できなかったため、概要調査で確認することとしている。「報告」に含まれる知見を踏まえても、磯谷溶岩がニセコ・雷電火山群に由来するかどうかについては引き続き評価できないため、概要調査でさらなる調査・検討が必要である。
2.磯谷溶岩の年代について
「報告」の説明は以下のとおりです。
➢ 第四紀初頭の活動年代が推定されている雷電岬火山角礫岩層との化学組成の近似性から、磯谷溶岩の年代も第四紀初頭と推定している。
➢ 「磯谷溶岩のK-Ar年代結果は,2.70±0.60Maの値で年代誤差を考慮すると鮮新世末期~更新世初期(注7)の活動年代を示す」(p.221 右列「まとめ」2))、「測定誤差が大きくなっているが,この原因は大気アルゴンの混入率が高くなっていることによる」(p.220 右列)としている。
これに対して当機構は以下のように考えます。
➢ 上記 1.で述べたとおり、磯谷溶岩と雷電岬火山角礫岩層の近似性については、いくつかの火山岩類との化学組成の近似性を示した上で、雷電岬火山角礫岩層の一部との近似性のみを取り上げ、評価を行っていることから、磯谷溶岩の年代を第四紀初頭と認定するには、概要調査でさらなる調査・検討が必要である。
➢ K-Ar年代測定の結果について、誤差を考慮すると磯谷溶岩の年代は330万年前~210万年前であり、第四紀(現在から約258万年前まで)である可能性があるものの、測定誤差が大きいため、概要調査に進んだ場合、さらなる調査・検討を行う。
注1) K-Ar年代:岩石・鉱物中に含まれる放射性元素の一つであるカリウム40がアルゴン40に変わる現象を利用して岩石・鉱物の年代を測定する方法。
注2) 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が運営する電子ジャーナルプラットフォーム「科学技術情報発信・流通総合システム」(J-STAGE)に掲載された。掲載された「報告」のURLは以下のとおり。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/131/1/131_2025.0019/_pdf/-char/ja
注3) 火道:地下のマグマや火山噴出物が地表へ噴出する際の地中の通り道のこと。
岩脈:地下から上昇するマグマが冷え固まってできる板状の岩体のこと。
カルデラ:輪郭が円形またはそれに近い火山性の凹地で、普通の火口よりも大きいもの。
注4) 火口:地下のマグマや火山ガスが地表に放出される場所のこと。くぼみ状の地形をしていることが多い。
注5) Ma:百万年前。
注6) 火砕丘:火口のまわりに火山噴出物が積み重なってできた丘状の火山体のこと。
注7) 鮮新世末期~更新世初期:鮮新世は、約533万年前~258万年前の年代を、更新世は、約258万年前~1万2千年前の年代を指す。
用語解説は、平凡社発行の「最新 地学辞典」を参考にしました。
なお、上記の見解につきましては、当機構のホームページにも同文を掲載しています。
以 上